そうだ 草津、いこう。

Happy Ending 全曲解説 その6


『 Happy Endで始めよう(バカラック Ver.)』


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今回は、この2章に分かれています。

どちらからでもご覧になっていただけます。


1.~曲の骨格を解きほぐす~(初中級篇)

2.~1音上げにまつわるエトセトラ~(中上級篇)


PCでの閲覧で、YouTubeの曲を最後まで聴いて画角が右ズレして左端の文字が欠けたときは、お手数ですがブログの再読み込みをお願いします



1.~曲の骨格を解きほぐす~(初中級篇)


「 Happy Endで始めよう」のイントロの10秒~、間奏の53秒~、および2分4秒~の箇所で、チョーキングで弾かれる低音のギターのフレーズが、左チャンネルから聞こえます。

これは、デイヴ・クラーク・ファイヴの「オーバー・アンド・オーバー(Over and Over) 」(1966年)からの引用ですね。

通奏低音的に鳴っているテナー・サックスの音色もセットで引用されています。

間奏を受け持つハーモニカ(1分5秒~1分17秒)にも要注目です。



デイヴ・クラーク・ファイヴは、 『Happy Ending 全曲解説その2(幸せな結末)』にも登場しましたが、大滝詠一さんとは切っても切れない関係にあると言ってよいでしょう。


たとえば、彼らの「I Know 」(1966年)は「1969年のドラッグレース」のリズムやサウンド・エフェクトのヒントになっていると思います。


また、彼らの「Try Too Hard 」(1966年)は「1969年のドラッグレース」のイントロ、エンディングの下敷きになっているようです。


ついでに「1969年のドラッグレース」のイントロの2秒と4秒のところで、車の左右のドアを閉める音は…。

この曲の4分42秒、4分49秒のところから…。エンジン音が鳴るところも…。


ついでのついでに…、映画『ちびまる子ちゃん わたしの好きな歌』(1992年)には、大滝さんの「1969年のドラッグ・レース」が登場しました。


この「1969年のドラッグレース」のシーンを手掛けたのは、奇才アニメーターの湯浅政明氏でした。

当時、彼は亜細亜堂というアニメ制作会社に籍を置いていました。

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その亜細亜堂が制作するアニメ『かくしごと』(2020年)のエンディングは「君は天然色」。

なんだか“縁”を感じるものです。




さて、デイヴ・クラーク・ファイヴの次に登場するのは、ロイド・プライスです。

ニューオリンズ出身のR&Bシンガーで、ロックの殿堂入りもしました。

ロックン・ロール黎明期に、少しだけエルヴィス・プレスリーに先がけた人というイメージがあります。


「 Happy Endで始めよう」を聞くと、ピアノのバッキングのスタイルから、クリスタルズの「ハイ・ロン・ロン」(1963年)がイメージされますが、ロイド・プライスの「ホエア・ワー・ユー」(1959年)の雰囲気もあります。


ロイド・プライスの「ジャスト・ビコーズ」(1957年)は、ジョン・レノンもカバーしていますが、大滝さんの手にかかると「ニコニコ笑って」になりました。


ロイド・プライスの「パーソナリティ」(1959年)のサビは、「恋のナックルボール」や「Tシャツに口紅」のサビの原型になっている と思います。

「パーソナリティ」の32秒~のサビの入り口で、歌メロではなくベースラインを聞くと

「♪ 恋の~(ナックルボール)」

と奏でています。

歌詞に耳をやると、冒頭のデイヴ・クラーク・ファイヴの曲名のように、繰り返し「♪ Over and Over 」と歌っています。

この「パーソナリティ」の曲の構造は、Cのコードでヴァース(Aメロ)が始まり、G7のコードからサビが展開するという、ヒット曲にはあまり例がない珍しいパターンです。



いや、そのコード展開のヒット曲が「パーソナリティ」の他にもありました…。

話題の主をデイヴ・クラーク・ファイヴに戻します。

彼らの「グラッド・オール・オーヴァー(Glad All Over) 」(1963年)がそれです。

18秒のところからがサビですね。

ロイド・プライスの「パーソナリティ」と同じ展開です



大滝さんのアルバム「イーチタイム」の根底にあるテーマは、ブリティッシュ・ロックでした。

「恋のナックルボール」の源流をたどって、英国のデイヴ・クラーク・ファイヴに行き着いた、と思ったら、その肩越しの向こうにニューオリンズのロイド・プライスがいた…。

大滝さんの「アメリカン・ポップス伝」や「ブリティッシュ・ポップス伝」に出てきそうなストーリーです。


話題がデイヴ・クラーク・ファイヴに戻ったところで、冒頭に挙げた要注目アイテムの“ハーモニカ”について…。

「 Happy Endで始めよう」では、1分39秒からの間奏でハーモニカの熱演が聞けます。

2番のサビ以降では2分40秒あたりから、ハーモニカが挿し入ってきます。

「 NIAGARA TV Special Vol.1 」には、「ラブ ジェネレーション」の第6話で流れたハーモニカ・バージョンが収録されています。

また、「うれしい予感」(1995年)のレコーディングの際は、ハーモニカのダビングが果てしなく繰り返されたそうです。

エンジニアを務めた内藤哲也氏がサンレコ・マガジン誌のインタビューで明かしたエピソードが面白いです。

今日は何をするのかな?ってスタジオに入ると、え!またハーモニカなの!?って


“大滝詠一さんとハーモニカ”のルーツをたどると、行き当たるのが、このお写真です。

アルバム『大瀧詠一』の中袋の写真で、撮影者は大滝さんのお母さまです。

1951年3月21日に撮影されたもので、ご幼少のみぎりに大滝少年が手に持っていたのは、ハーモニカ

何やら暗示的な撮影日ですね。

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そして…。

「 Happy Endで始めよう(バカラック Ver.)」のエンディングでジャブジャブしているサウンドは、1998年当時の新春放談で明かされたように、五月みどりの「温泉芸者」のイメージですね。

1963年の曲です。

1963年といえば、デイヴ・クラーク・ファイヴでいうところの「グラッド・オール・オーヴァー」の年です。

国境横断的な音楽史がわかりやすいような、わかりにくいような、微妙な比較ですみません。


ちなみに「五月みどりと小松みどり とでは、どちらがよりみどりなのか?」という微妙な比較の答えについては、

「ご想像にまかせます」


(結局、これが言いたかった)😃

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2.~1音上げにまつわるエトセトラ~(中上級篇)


ドラマ「ラブ ジェネレーション」の演出を務めた永山耕三さんから、

草津へ行く話があります

と聞くやいなや、

さらにもう1曲つくったよ

と即座に曲を仕上げた大滝詠一さん。

作詞は、「幸せな結末」と同様、二人の共同作業で進められました。

「Happy Endで始めよう」は、ドラマの第6話で流れた“草津バージョン”の方が、市販バージョンよりも先に作詞されたのです。

今回の『 Happy Ending 』では、これがバカラック・バージョンと名を変えて収録されました。


歌詞はこんなふうにドラマのストーリーに沿ったものになっています。


今年のふーゆは 草津に行こう

 わがままなー君 口ずさむ バカラック


 雪降るよーるは ワルツを踊ろう

 あーまいメロディー 僕からのプロポーズ


バート・バカラックの曲は、転調が多用されたり、ワルツが多いのが特徴です。

「ワルツを踊ろう」という歌詞は、そんなイメージから生まれたのかもしれません。

バート・バカラックのワルツの有名曲には、ジャッキー・デシャノンの「世界は愛を求めている」や、 トム・ジョーンズの「何かいいことないか子猫チャン」などがあります。


ここでは、バカラックのワルツのうち、ジャック・ジョーンズの「素晴らしき恋人たち( Wives & Lovers )」(1963年)に注目したいと思います。

フランク・シナトラやアンディ・ウィリアムスもカバーしており、スタンダード・ナンバーの味わいがあります。


この曲の特徴は、ワン・コーラスの中で“1音上げ”の転調をしていることです。


歌いだし6秒16秒のところ、つまり「 ♪ Hey! Little Girl ~」の部分の旋律がそのまま、

続く17秒27秒のところ、つまり「 ♪ Don't think because ~ 」の部分で、1音分上へスライドしているのです。

コード進行(ギターのカポ1での表記)を見ると、一目瞭然です。

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大滝さんは、これと同じように「Happy Endで始めよう」のワン・コーラス中、サビのタイミング( 40秒1分23秒2分36秒 )でキーをAメジャーからBメジャーへ1音分上へスライドさせているのです


かつて、これと同じサビでの“1音上げ”を、大滝さんは「君は天然色」でもやろうとしていました。

A LONG VACATION 30th Edition 」のディスク2に収録の「君は天然色 (Original Basic Track)」で、その奮闘ぶりがうかがえます。


「君は天然色」のそのような構造のアイデアの基になったのが、ロイ・ウッドが率いたバンド、ウィザードのナンバーで「 See My Baby Jive 」(1973年)という曲でした。


“幻の” 君は天然色」とまったく同じで、Dのキーで歌が始まり、サビでEのキーに1音分スライドしています。

サビで1音上がってしまうと、2番の始まりで元のキーに戻ってくるのが難しくなりますが、「 See My Baby Jive 」の1分14秒のところで

「♪ ジャンジャン ッジャ、ジャン

Aのコードを鳴らして、強引にEのキーから元のDのキーへ戻っています。

大滝さんは「君は天然色」で、この“上がってまた戻る”というのをやりたかったんですね。


ウィザードでロイ・ウッドが試みたサウンドは、大滝さんにとって大いに刺激になったようです。

彼らの「 Angel Fingers 」(1973年)にもキャッチーな仕掛けがありました。


2425秒で聞かれるピアノのオブリガードは、「恋するカレン」や「快盗ルビイ」でも使われれています。

また、1分15秒のところと、3分37秒のところの“2拍3連”は合体して「白い港」で登場しています。

フェードアウトせずに駆け上がって終わるラストは、「風立ちぬ」のエンディングの余韻に似ています。



さて、ここからは、“1音分上げ”のオプションの話です。

取り上げる曲は、大滝さんの「サイダー79」です。

『 ナイアガラCMスペシャルVOL.1 』の30th Anniversary盤に初収録されました。

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「サイダー79」は ザ・パレードの「サンシャイン・ガール」(1967年)をカバーしたものだと、大滝さんは明かしています。

ザ・パレードのメンバー、ジェリー・リオペルといえば、フィレス・レコードと外部プロデューサーとして契約し、フィル・スペクターの代役としてプロデュースも手掛けたりしていた実力派です。

ザ・パレードの「サンシャイン・ガール」は、サビの途中でAから半音で3つ分あがって一気にC にスライドしているのです。

32秒でサビが始まり、45秒のところでAメジャーからCメジャーへ上がっています。


大滝さんは、“カバー”したと謙虚に言っていますが、「サンシャイン・ガール」は「サイダー79」の“モチーフ”程度に使われている印象です。

本家「サンシャインガール」は、全音で1.5音分上がったまますぐには戻ってこないのですが、「サイダー79」で特筆すべきところは、上がった直後に“戻っている”ところです。

すなわち、こんなふうに。

き・み・は、透明ガール 透きっ通る~


       透明ガール 透きっ通る~ (2回目で上がって…)


       透明ガール 透きっ通る~ (3回目で元のキーに戻る


「サイダー79」が録音されたのは、1978年11月24日のことでした。

その2年余り後に“上がってまた戻る”アイデアを活かして、大滝さんが“ナイアガラ的再生術”で「サイダー79」をリボーンさせた曲がありました。


太田裕美さんへ提供した「ブルー・ベイビー・ブルー」がそれです。


元気だせよ  Baby blue ( Cm7 / F7  | Cm7 / F  )Cm→Dbm(=移行和音)


 淋しそうな  Baby blue ( Dm7 / G7 | Dm7 / G7 )ここで上がって


 もしかすると Baby blue ( Cm7 / F7  | Cm7 / F  ) ここで戻る 


「サイダー79」でのアイデアが、1981年3月21日発売の「恋のハーフムーン/ブルー・ベイビー・ブルー」で成就したわけですね。


とあるナイアガラーのお友だち は、このシングル・レコードを見かけるとほおっておけないようで、なんと、25枚保有されています。

ご当人いわく、「迷子を保護する感じ」なんだそうです。

太田裕美さんは、まさに“戻る”べきところへ戻ったのかもしれません。

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しかし、その一方で、今回の『 Happy Ending 全曲解説 』は、「Happy Endで始めよう」の話へ戻らず、このまま次回へ。(笑)



さて、今回のタイトルの「そうだ 草津、いこう。」について、、、

いまの事態が収束して、思い立ったところへ自由に旅立てるような、穏やかな日が早く来ることを祈っています。

明けない夜はない、と信じて…。


「そうだ 京都、行こう。」のCMソングは、ミュージカル界のバカラックことリチャード・ロジャースの作曲。

ステキなワルツなのです。




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この記事へのコメント

eachro
2020年05月01日 02:46
いつも楽しく拝見しております


五月晴れのつまごいパノラマラインを
ブリティッシュグリーンのオープンカーで
右折禁止に気をつけながらドライブしたいです

そして草津でじゃぶじゃぶ、温泉を楽しむ♪

そんな日が、1日でも早く来ることを祈りつつ。。
れんたろう
2020年05月02日 21:12
eachro様

ステキなコメント、ありがとうございます。

五月晴れのつまごいパノラマライン…、ステキ過ぎます。

温泉旅行に行けるような当たり前の日々に早く戻れますように…。